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マンガと詩


by madozukin
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彼女の名はサビーヌ

 ふたりのサビーヌがいる。若い頃の、透明感のある、人形やセーターを編みバッハも弾いたサビーヌ。スクーターも運転したという。しかし、兄の死や環境の変化に彼女の心は耐えられず、それは乱暴な態度として表出した。手を焼いた家族は病院を頼る。自閉症に対して理解が低かった当時、病院で拘束され薬漬けにされたサビーヌは、体重が三十キロ増え失禁し、自分のことも出来なくなったしまった。五年間そこにいた後、このドキュメンタリーの撮影者、姉で女優のサンドリーヌによって現在の専門施設に移される。

 画面に映るもう一人のサビーヌ。薬は、精神病院にいた頃のはんぶんになったけれど、飲まなくてはならない。セラピーの一環として家庭菜園の草抜きするのも面倒ですぐに休みたがる。不安になると奇声を上げる。怒るとかんたんに相手を撲とうとする。サンドリーヌに何度も「明日も会いに来てくれる?」と確かめる。

 いまのサビーヌが、かつての自分の映像を見たとき、表情が急変する。そのはげしい感情の動きにサンドリーヌが悲しいのかと尋ねると「嬉しいのだ」と答える。ママの生きていた頃だと振り返るサビーヌは、途中「病院」という暴力的な環境に置かれつつも、人間の尊厳を失っていなかった。身に起こっていることをちゃんと分かっている。

 最後に、サンドリーヌの、「もう一度妹と旅ができるだろうか」というモノローグでこのドキュメンタリーは終わっている。
 「自閉症」の症状や病質を知らないために起こった悲劇であるのだけれど、何というか、わたしは泣き出したサビーヌを見て損なわれなかったものもあると感じました。過ぎ去った時間、容姿、あるいは才能をいたむよりも。
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by madozukin | 2009-04-20 21:54 | 映画