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詩人ワニ madozukin.exblog.jp

マンガと詩


by madozukin

ドックトゥース、または籠の中の乙女

 まず世界があった。神である父は天地を創造する。妻はその共犯者であり、三人の子ども達は、特筆に値する「例文」としてしかの世界を知らない。そこでは、猫はネコでなく、外部から敵である。食卓にある胡椒が電話であり、子ども達は、高い壁に遮られ、外の世界とは遮断されている。二人の姉妹と一人の息子。

 外の生活を知っている人間からしたら、楽園と言うより、ちょっとした収容所である。規律があって、競争と支配があるが、本当の意味の承認がない。後で分かるが、子ども達は、名前を持っていない。例えば、長女と呼ばれる。

 さて、思春期を迎えた息子に、父はそれを処理してくれる女性を連れてくる。父親が所有する大きな会社の従業員でもある彼女。お金を払い、目隠しをされ、その場所に連れて来られる。そして、ある切欠で、まるで聖書に出てくる蛇のように、子どもの一人に知恵の実を与えることになる。

 それは、映画のビデオであった。

 世の中には、固有の名前があり、その人として呼ばれる。子ども達とは呼ばれない。父と母が与えてくれる、食べ物と序列と、きょうだい間だけで繰り広がられる競争以外の世界の存在することを発見する。なんということだろう。

 表題でもある「犬歯」という原題は、父親が子ども達に教えた、犬歯が抜けたら家を出ても良いという規律に拠る。子ども達の犬歯は、永久歯で抜けるはずもないので、永遠にやってこない承認である。

 この収容所を悟ったとき、三人のうち一人は、どんな行動に出るか。子どもは必ず大人にならなくてはならない。あるいは、なるものなのだ。
by madozukin | 2012-10-24 12:00 | 映画